「『失敗学』事件簿」 畑村洋太郎(小学館 2006年4月10日)を読んでいます。
サブタイトルに「あの失敗から何を学ぶか」とあります。
事例は、まだ記憶が鮮明な「福知山線脱線事故」(2005年)から始まりますが、16件の事例の中に、今回の地震と関連するものが含まれています。
掲載順に
(みずほ銀行のシステムエラー)
みずほはなぜ同じ愚を繰り返すのか 38ページ
(福島原発事故)
東京電力の原子力トラブル隠蔽事件 68ページ
(東日本大震災)
東北の地震に学ぶ教訓 138ページ
以下に内容を抜粋引用させていただきました。原典を読むことをお勧めします。
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(みずほはなぜ同じ愚を繰り返すのか)
みずほ銀行は震災後システムエラーにより、ATMが稼動しない、振込みができない、などの事態となりました。これを聞いて思い出したのが、2002年4月の合併統合による大規模なATMシステム障害です。
「『失敗学』事件簿」によると、システム運用には「間違いが起こることを前提にした『逆演算』の対策が必要不可欠」であり、「あらかじめ起こり得る事態を想定して防衛手段を講じておく」「『仮想演習」も重要になる。」が、この「重要性をきちんと認識していなかったのではないだろうか。」 (P40-41)
それだけでなく、2002年の障害の後発表された報告書を読んで畑村氏が感じたのは
「この銀行はいつかまた同じトラブルを起こす」(P50)
というものでした。
システム障害の「背景に統合三行の勢力争いがあったことは明白である。みずほの経営問題そのものが事故の背景にあるのに、報告書は当時の最高経営責任者(CEO)の責任や旧第一勧業・富士・日本興業の統合三行がコンピュータシステム統合をめぐって演じた覇権争いなどに全く切り込んでいない。」(P50-51)からです。
「トラブルの発覚以前に、システムエラーの報告が現場から経営上層部に上っていた」(P45)のに、
「『システムの問題点を抱えたままの統合ではゴーサインが難しい』と、システムエラーの復旧を優先し統合延期を決断するトップではなかったということだ。」(P45)とも書かれています。
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(東京電力の原子力トラブル隠蔽事件)
福島第一、福島第二、柏崎刈羽の点検記録虚偽記載が2002年8月に発覚した事件です。
「原発事故にみる『絶対安全』のいびつさ」(P72)の項があります。抜き出し引用しますと、
「 この世の中に『絶対安全』なものなど決してない。だが、それを標榜している唯一の産業が原子力発電なのである。正確には、そう標榜せざるを得ない状況になったと言うべきだろうか。1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故などを契機に、『原子力は怖い』という感情が広がり、『事故は起き得ない』と絶対の安全性を標榜しないと運転させて貰えなくなった。」(P75)
「本当は、『人間がかかわる技術には必ず失敗の危険性がある。原子力も同じ。それでも、電力を確保するのに原子力は欠かせない。だから考え得る限りの安全策を取っている』と説明するのが筋である。」(P75)
後日談(P77)に、「本来危険であることを承知の上で細心の注意と覚悟のもとに使うべき原子力を『原子力は安全です』と『ウソ』の上に進められてきた原子力の取り扱いにある。国民全体が原子力をどう扱うかを自分の問題として考えない限り、このトラブル隠蔽事件の真の解決はない。」
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(東北の地震に学ぶ教訓)
2003年に震度6弱を記録した三陸南地震について書かれています。
「 筆者は約40年前、大学3年の夏休みに工場実習で釜石に出掛けた。日曜日に海水浴をしようと隣村の唐仁(とうに)という所に行った。そこで碑石を見て肝をつぶした。海岸よりはるか高いところにある碑には、『ここまで津波が来て皆死んだ。ここより下に家を建てるな』と書かれていた。空恐ろしくなって早々に引き揚げたのを、昨日のことのように覚えている。
1896年の明治三陸大津波では最高38メートルもの津波が押し寄せ、2万2千人以上が死んだ。このような大惨事の言い伝えや警告にもかかわらず、あちこちの入り江で海岸近くまで人家が下がってきている。こうしてまたいつの日か大災害が起こり得るのだ。」(P140)
↓同書141ページ掲載の図版
144ページには「地震で学ぶ知識伝達の必要性」という項目がありますが、今回は非常に残念な結果となってしまいました。
ユーチューブに 「"TSUNAMI" 失敗は伝わらない」
(畑村洋太郎『だから失敗は起こる』第4回
知るを楽しむ「この人この世界。」(2006年放送))
が投稿されています。
事が起きてしまった今見るにはちょっとつらい内容ですが、きちんと知っておく必要があると思います。
(画面右端のYouTubeをクリックすると、YouTube上の大きな画面で再生されます。)
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連日「本日の大気中の放射線量」を気にしなくてはならない、出来の悪いSFのような事態が来るとは想像していませんでした。
追記:失敗知識データベース
http://www.sozogaku.com/fkd/index.html
(畑村創造工学研究所
http://www.sozogaku.com/hatamura/ の中にあります。)
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