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2014年7月15日 (火)

この世の果てるまで

昔見て忘れられない映画の一つが『シベールの日曜日』(1962年、フランス)です。

好きな方は大勢いらっしゃるようで、ネット記事を探すと、実にたくさん出てきます。

DVD化されたとき、ラストの重要なシーンがカットされていると話題になりました。

それについてもいろいろな記述がありますが、往年のファン(中高年のことです)の「カットされちゃってる!」派を、問題シーンを見てない人たちが罵倒しまくってるサイトがありました。

「妄想だ」「ありもしないシーンをでっち上げるんじゃない」とか・・・

ネット上の話を総合すると、なんども公開され、初公開時、再公開時、テレビ放映、BS放映などで異なるバージョンだったようです。

そのシーンのないバージョンを見た人にとっては「何言ってんだ」となるも仕方ないでしょうけどね、見たことないからってののしっちゃいかんですよ。

ワタシが見たのは、1971年4月、新宿の名画座「シネマ新宿」での再公開でした。

きっちり覚えていたわけではなく、あるサイトをみて、当時のワタシの状況からすると、これしかないと思った次第です。

新宿にあった小さな小さな名画座「シネマ新宿」の1971年春のラインナップ

http://d.hatena.ne.jp/yabuDK+showa/20120419/1334812188

図版中に、1971年4月6~12日「シベールの日曜日」とあります。

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見たことがない人が「妄想だ」と言うのは、ラスト近くのシーン(以下ネタばれします)。

ピエールが教会の屋根から外した風見鶏を持ちシベールの待つ東屋に戻る。ピエールがナイフを振りかざしすシーンがシルエットで浮かび上がり、直後に銃声が響き渡る・・・

このシーンを「ピエールがシベールを殺そうとした」と解釈するなら、話が大きく違ってしまう。だからそんなシーンなかったのだ・・・とカット無し派。

いいえ。

ワタシが見たのは40年も前ですが、当時このシーンを見て「殺そうとした」なんてこれっぽちも思いませんでしたよ。

ナイフは二人の重要な小道具で、これはいつもの遊びだと。

それ以前にもナイフを振りかざすシーンがあります。

町の噂を心配したマドレーヌが、ピエールとフランソワーズ(シベール)を隠れて追跡し様子を伺うシーン。

ピエールがシベールにナイフを振りかざし、マドレーヌは身をすくめる。

が、すぐシベールが今度はピエールにナイフを向ける・・・

こちらのシーンはカットされていません。

ナイフは二人にとって魂の声を聞くための魔法のナイフでした。

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実は、40年前には見過ごしていた場面がありました。

いや、聞き過ごしていた場面です。

画像としてははっきり覚えていますが、フランソワーズがピエールに抱えられて、歌う場面です。

今回、気合を入れて聞きました。字幕に歌詞の訳はありません。

『Aux Marches du Palais』 (宮殿の階段で)

フランス人なら誰でも知っている古謡もしくは童謡のようです。

劇でも映画でも小説でも、作品中の歌は重要な意味を持つことが多くあります。

そしてしばしば異なる言語圏の人には悩みの種にもなります。

英語なんぞ、誰でも知ってる前提で、マザーグースの歌が紛れ込んでいたりします。だいぶ経ってから気がついて、ああそうだったかと思えるのはまだいいです。多くの場合、なんだか釈然としないまま人生を終えることになるかもしれません。

この歌、ありがたいことにYouTubeにありました。

国民的な歌のようで、ナナムスクリもマリーラフォレもイブモンタンもあの人もこの人もその人も歌っています。

アニメ版もあります。絵だけで意味がわかります。

http://youtu.be/NzTqyr__D4k

歌う人によって微妙に歌詞が異なりますが、大意、

「美しい娘がいて、大勢の男が言い寄り、娘はしがない靴屋を選んだ。

娘さん、一緒に眠りましょう、このナンタラカンタラ(白いシーツだったりラヴェンダーの香りがしたり四隅に花束があったり中央を深い河が流れていたり川で王様の馬が一斉に水を飲めるほどだったり・・・バリエーション豊富)のベッドで。

ずっと幸せに、この世の果てるまで一緒に眠りましょう。」

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ピエールとシベールも、この世の果てるまで幸せに一緒に眠るはずでした。

が、いきなり、理不尽にピエールが失われてしまった。

もう一度、ラストの問題場面。風見鶏を手に入れたピエールの後を警察官が尾行する。ピエールは東屋へ戻り、シベールは目を開ける。ピエールはナイフを振りかざす(シルエットで表現)。銃声が響き渡る・・・

シベールが悲鳴を上げて逃げ出したのは、ピエールが目の前で殺されたから(と思いました)。

気を失い警官に抱えられて戻ったシベールが名前を聞かれる。

「名前なんかないわ。もう誰でもないの」

世界が終わってしまったから・・・

ネット情報によると、ワタシと同じバージョンを見た人の中にも

「どうしてピエールはシベールを殺そうとしたのかな」

と思った人もいたようで、ピエールが殺人鬼と受け取られては意味が違ってしまう、と後にカットされたらしい、という意見も。

人間の感性はいろいろです。

ただ、カットされたため、唐突に終わってしまったという印象は残ります。

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で、『Aux Marches du Palais』の歌詞を意識しながら、もう一度見ると、あらゆるものが悲劇の結末へとつながっている気がします。

実に深読みしがいのある映画です。

フランソワーズの本名シベールCybeleは、フランス語のsi belle(とても美しい)と発音が同じで、歌の中のtant belle(とても美しい)に繋がります。

歌の中のとても美しい娘はシベールのこと。

言い寄る男たち(同年齢の少年たちと遊ぶシーンがありました)ではなく、ピエール(心の年齢はシベールと同等)を選びました。

ワタシ18がになったらあなたは36、結婚できるわ・・・

シベールは二人で過ごすクリスマスを夢見る。

きれいに飾ったツリーとプレゼント。私にはあの風見鶏。シャンパンに酔って私はあなたと眠りにつく。手に手を取って・・・

歌そのままの幸せな夢。

ピエールはその夢をかなえると約束し、ツリーを運びロウソクを持ち出しシャンパンを用意する。

シベールのプレゼントは本名を書いた紙の入った小さな箱。

ピエールは本当に嬉しくて、約束の風見鶏を取りに行く。

首尾よく手に入れて戻り、さあ、という時、銃声が鳴り響く。

気を失ったシベールをなぜピエールの傍らに横たえたのか。

一瞬ですが、ピエールとシベールが一緒に眠っているように見えます。

〈この世の果てるまで一緒に眠りましょう。〉

ピエールが失われた世界はあべこべの世界。

「名前なんかないわ。もう誰でもないの」・・・

深読みしなくたって、充分引き込まれる映画です。

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なお、問題のカットシーンについて、英語とドイツ語のwikipediaには明瞭に記述されています。

英語版:
http://en.wikipedia.org/wiki/Sundays_and_Cybele

Plot

Pierre has nothing to give Cybele for Christmas, so he takes up her earlier joking challenge to bring her the metal rooster on top of a Gothic church near the orphanage. Being a former pilot, he musters the nerve to climb the 300 foot steeple, and uses his knife as a tool to unscrew and bring down the rooster. He approaches the girl, carrying the metal rooster and his knife. However, at this point, the police arrive and shoot him dead to "protect" the child, who they think is in danger.

Cybele, who had fallen asleep waiting to meet Pierre for their Christmas together in the snow covered park's gazebo, is devastated by witnessing the pointless killing of her friend.

ピエールは風見鶏とナイフをもってシベールに近づく。しかしその時、警官が到着し、危険からシベールを”守る”ためピエールを射殺する。

雪に覆われた公園の東屋でピエールを待ちながら眠ってしまったシベールは、ピエールが無意味に殺されるのを見てしまい、心を引き裂かれる。

ドイツ語版:
Sonntage mit Sybill

http://de.wikipedia.org/wiki/Sonntage_mit_Sybill

Mit einem Messer montiert er den Metallhahn ab und bringt ihn dem Mädchen. In diesem Moment kommt die Polizei. Die Beamten sehen Pierre mit dem Messer in der Hand vor dem Mädchen und erschießen ihn.

(infoseek自動翻訳(一部代名詞を修正):ナイフ金属雄鶏を取り出して女の子それを持ってきます警察来ます当局女の子の前にナイフピエールに会ってを撃ちます

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コメント

細部までよく覚えてますね。
好きな映画のひとつのはずですが、ほとんど忘れてます。
というかぼやっと見てるだけだったんです。

シネマ新宿、懐かしい。客席に大きな柱がある映画館。
よく通いました。

投稿: 多摩散歩人 | 2014年7月16日 (水) 16時10分

おはようございます。
好きな映画でしたから、当時数回見たはず・・・
さんざん迷ってDVDを買いました。
スペイン語の字幕でよければYouTubeでみられます。
Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray / Sundays and Cybele
以前は英語字幕付きがありましたが、消えては現れまた消えて、の繰り返しです。 


シネマ新宿、そうでしたね、スクリーンに向かって確か左側に太い柱がありました。
元は廊下だったんだろうか、と思いながら、映画を観ていました。

投稿: マイマイ | 2014年7月17日 (木) 09時48分

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