« 「恐るべき子供たち」 Les Enfants Terribles | トップページ | LとRの舌かげん »

2013年7月25日 (木)

童顔の罪

まずは引用から。

『地球 味な旅』 深田祐介 新潮社 1992年12月10日

130725fukada

280頁 わが安息の地「上海」より。

〈 最近の私は、中、高年の男性から、

 「お若いあなたは、ご存知ないでしょうけど、戦時中は苦労してね」

 そういう話がでてきても、じっと我慢して相槌を打つ。

 私は準備魔だから、相手の生年月日など調べがついていて、私より若いことを知っているにもかかわらず、である。

 「東京大空襲はすごかった。銀座通りにも死体がごろごろしてさ」

 「へえ」

 私はのけぞって驚いて見せる。

 「東京が空襲されたとは知りませんでしたな。それで爆弾落としたのはロシアの飛行機だったんですか」

 そういいたい誘惑に打ち勝つのは並大抵のことではない。〉 

このヒトの悪い著者は、1931年7月15日生まれ。上記の原稿を書いた時点で「よわい六十余にして髪黒く、童顔」です。

思わず吹き出したのは、ワタクシも童顔だったからです。過去形なのは、30代後半で髪に白いものが出始めて、その後一気に実年齢に追いついたからです。

それまでは、成人しているにもかかわらず小学生に見られたりしました。

-------------

一人暮らしのアパートにセールスのおばさんがやってきたとお思い下さい。

ワタクシが「はい」と顔を出しますと

「おうちの方はいらっしゃらないの?」

「いないんですけど」

「あっ、そう」と無愛想に立ち去ります。

うるさいセールスに居座られなくてよかったけど、むかっ。

-------------

就職したある会社の社長。20過ぎてる乙女を、あろうことか「チビ」と呼びます。

ある日社長が真顔でいいました。

「チビ、S●m●nて知ってるか」

ぎょえ。あんた乙女になんてこと聞くんだ。マジか?

ドイツ語ですが、語学の問題じゃなく、日本語であったとしても当時の乙女が口にできない言葉ですぞ。

どうせ知らないだろ、とタカを括ってるのが丸見えでした。

えへへ知らない、みたいな顔して笑ってましたが、腹の中では(こいつバカだ・・・)

一流大学でて会社作って社長に納まってはいても、いろいろ大変なんでしょう。下っ端でえへらえへらしているワタクシみたいなのをコケにして憂さ晴らしたんでしょうけど、その下っ端、当時いけないと言われる本は片っ端から読んで、余計な知識をしこたま溜め込んでいたんですぞ。

童顔の中味は案外腹黒ですぞ。

-------------

子どもの手を引いて歩いていました。

向こうからやってきたカップル。どうみても自分よりはるかに若い。

すれ違って会話が聞こえてきました。

「見ろ、あんなに若くたって、子どもいるんだぞ。お前だって・・・」

うるせえな。もう30超えたよ・・・

-------------

童顔は善人に見られます。

ワタクシもひたすら「いいヒト」と思われてきました。別の言い方すれば「無難なヒト」・・・また、別の言い方すれば「つまんねえ」・・・

善人路線から大脱線したくなるんですよ。

で脱線して、でもまたその先によってたかって善人路線を敷かれてしまう。周囲の期待はどこまでも「無邪気な善人」。

いろんな善意の期待をぶち壊しにしたい誘惑に駆られるのは、深田さんだけじゃありませんです。

童顔の名残か今でも善人に分類されることのあるワタクシもまた、無邪気な期待に茶々や半畳や横槍を入れたい誘惑にかられることがあります。

ところで。

童顔の話ばかりをしましたが、この『地球 味な旅』、実に広範囲に興味深い話題を取り上げています。

「戦争から逃げるな、テレビ局」(229頁)では、

〈開戦から五十年が経って、戦争は遠くなり、ほとんどの男優が軍人を演じられなくなっている。エキストラも人手不足らしく、姿勢の悪い、戦闘帽の下から長髪をぶざまにはみださせた演劇志望の青年風の兵隊ばかりが出てきて、興を殺ぐこと甚だしいが(略)〉

とキャストへの不満から始めて、珍妙なドラマへの違和感を列記し、歴史的事実を曲げて安易に戦後の固定観念に頼りすぎる戦争ドラマの浅薄さを批判しています。この部分は読む人によって意見が分かれるところだとは思いますが、一読の価値あり。

「戦争から逃げるな、テレビ局」の最後の文章は次のようになっています。

〈歴史の「全否定」が正しかったためしがない。「部分肯定、部分否定」こそが真実を衝くものが、ということを、戦争番組制作者は襟を正して考えるべきである。」〉

|

« 「恐るべき子供たち」 Les Enfants Terribles | トップページ | LとRの舌かげん »

文系(本とか)」カテゴリの記事

コメント

私も、童顔人生を送ってきました。
マイマイさんの話し、良ーーーく判ります。
今じゃ、もう少し若く見られたい願望の方が強くなりましたけど^^;

投稿: kiri | 2013年7月25日 (木) 18時43分

いよいよ、御齢が解らなくなりましたが、
それはそれで、少なくとも、よしといた
しましょう。
それでも、お心はお若い! いつまでも
青春さ!・・・で、お互いに生きて行きま
しょうね。happy01

投稿: しらこばと | 2013年7月25日 (木) 21時16分

kiriさま。
あら、ご同様でしたか。
今となっては若く見られたいけれど、髪を染めるのは抵抗あり・・・
でも最近お気楽人生を送っているせいか、頭が黒くなってきた、とか言われます。
真っ黒に戻る日は来るのか `;:゙;`;・(゚ε゚ )ブッ!! コナイコナイ

投稿: マイマイ | 2013年7月26日 (金) 13時21分

しらこばと様。
中味は永遠に未熟者です。
第二の青春、麦秋もまたよきかな。
生きねば。楽しまねば。catface

投稿: マイマイ | 2013年7月26日 (金) 13時30分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/525834/57861312

この記事へのトラックバック一覧です: 童顔の罪:

« 「恐るべき子供たち」 Les Enfants Terribles | トップページ | LとRの舌かげん »