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2013年2月11日 (月)

間違いは尾を引く

印刷物を目にするとつい誤植探しをしています。

結構あるんですね、大手出版社の大著者の有名小説だって、「へ?」と思うようなミスが。

大半が内容に影響はありませんが、時に誤った情報を伝えていることがあります。

一度発行された本は一種の権威となりますから、それを参考にする人が誤りに気付かず引用して本にし、それがまた引用(孫引きと言います)されて・・・誤ったまま定着します。

インターネットが加わった今、間違いの尻尾は際限も無く伸び続けるようです。

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一つの例に、2007年に放送打ち切りとなったTV番組「あるある大事典」発の“レタスに含まれる安眠成分「ラクッコピコリン」”(1998年10月25日放送)があります。

可愛らしい名前ですが、英字表記は「lactucopicrin」。

「あるあるデータ捏造騒ぎ」の発端となった顛末を記したネット記事

「科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体
「この世に存在しない“ラクッコピコリン”に秘められた研究者の責任」
2007年1月24日
http://www.foocom.net/fs/takou_old/975/

によりますと、カタカナ表記「ラクチュコピクリン(ラクツコピクリン)」が近い発音のようです。

しかも、「レタス」ではなく「ワイルドレタス」に含まれる成分だとのこと。

が、あっという間にラクッコピコリンは「拡散」しまして、健康情報の本でも、レタスを食べてラクッコピコリンで安眠・・・みたいな記事を見かけました。

発覚から6年、さすがもう間違いと認識されているだろうと思い、念のためネット検索すると、「美容と健康に、不眠に」という記事がごっそり。

それを信じてレタスを食べようとしている人も、検索期間を1ヶ月以内に限っても出てきますし、「ラコックピコリン」という名前も派生しています。

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と、偉そうに書きましたが、ワタクシここで手抜きをしております。

上記の記事を書いた「千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一さん」は信頼に値する人と思うのですが、それでも正確を期するには、長村教授がお書きの

〈その後判明したことであるが、実際のところは強い眠気を催すのはワイルドレタス(Lactuca virosa)であって、その形はサラダレタスに似ても似つかぬ菊のような植物である。そして、その催眠成分はlactucopicrin であって、ラクッコピコリンなどという成分は存在しない。〉

の部分の根拠を確認しなければなりません。論文に当たればいいんですけどね・・・当たれませんです。そんな能力ありませんもん。

かくして、ワタクシも受け売りを書いてしまう・・・

130209lactuc1

画像は「ワイルドレタス」 wikipedia 「wild lettuce(Lactuca virosa) 」
http://en.wikipedia.org/wiki/Lactuca_virosa から借用しました。)

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で終わりにしてはあまりに間抜けです。今更ですが、ちょっとつついてみましょ。

(「あるある」の「ラクッコピコリン」問題からは離れます。)

「レタスを食べると安眠できる」という話は以前から存在します。

●愛用の『キッチンに1冊 たべもの薬箱』(阿部絢子 文化出版局 1993年3月28日)にも

〈眠れぬ夜はレタスジュース

 目が冴えて眠れない、何か神経が高ぶって眠れないといった場合には、レタスにある沈静作用を利用します。〉 (102ページ)

と書かれています。巻末の参考文献8冊のうち、漢方などの5冊を除いたどれかが引用元のはず・・・

図書館にあった『食べるクスリ』(ジーン・カーパー 平成3年(1991年)7月17日 飛鳥新社)を借りてきましたが、空振り。しかしこの本、健康情報番組のネタみたいな話が詰まっています。あと2冊は図書館に収蔵なし。

●次、古書店で見つけた『野菜を食べて健康になる本』(吉田企世子 ナツメ社 1995年5月10日)に

〈なお、ヨーロッパの薬草療法では、高ぶった神経を鎮め不眠症に効果があるとされています。〉 (106ページ)

ここに書かれているように、多くが「ヨーロッパの民間伝承」と言っていますが、出典を書いたものには今のところ行き当たっていません。

ヨーロッパのどの地域の、どのレタスの、どのくらい昔からの伝承なんでしょう。

こちらの参考資料は21冊・・・めげずに当たろうと思いましたが記載に不備あり意欲撃沈。

●手元の『アメリカ俗語辞典 The Underground Dictionary』
 (研究社 昭和50年(1975年)9月30日
 原編者:ユージン・E・ランディ 訳編者:堀内克明)

〈lettuce  1.e レタス レタスをミキサーにかけてしぼり出した汁を飲むとゆるやかな快感を得ることができる(後略)〉 (240ページ)

eは凡例によると、俗語ではなく、百科事典的な項目であることを示す。〉 

原編者が謝辞で、ロサンゼルス警察本部麻薬課とロサンゼルス郡保安官事務所麻薬課の協力に感謝しているように、ドラッグ関係のスラングが一杯です。

●ネットに↓こんな記事がありました。

レタスとは-コトバンク
http://kotobank.jp/word/%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%82%B9

食の医学館の解説 (出典:小学館)

〈 レタスはキク科の1年草で、西アジア、地中海沿岸が原産地とされています。品種はサラダ菜、サニーレタス、リーフレタスなど多岐に渡りますが、一般的に「レタス」といえば、結球している玉レタスのことを指します。

(中略)

 古代ギリシャローマでは、安眠をもたらす野菜として紀元前から食用として用いられていたといいますが、当時は結球しないタイプのもので、玉レタスが広まったのは16世紀ころからといわれています。〉

大元の参考文献が書いてあればなあ・・・

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方向を変えましょ。「wild lettuce」をネット検索してみました。

Lactuca virosa」(wild lettuce)というwikipediaのサイトには、
http://en.wikipedia.org/wiki/Lactuca_virosa

(大意) 19世紀に(イギリスで)アヘンの代わりに使われ、lactucopicrin と lactucinの成分が発見された。1970年代にアメリカでまたもてはやされるようになった。

書かれていました。1970年代とは、ヒッピーあたりが愛用したのかな・・・ 

でまた、ネット検索するとそのような記事が出てきます。

 〈ワイルド.レタスはヨーロッパ、アフリカ北部の荒れ地や丘の斜面などに分布し、学名ラクツカ.ビロサというキク科植物。その歴史は、古代メソポタミアやエジプトでも鎮静効果のあるハーブとして用いられ、18世紀には不眠症、精神安定剤として医療にも使用された。その後、1960年代のヒッピーのドラッグカルチャーでLSDやマリファナなどと一緒に広く使用されるようになった。〉

↑引用元のURLを書いていないのは、コピペによる同じ文章がごっそり出てくるからです。ほとんどが「ドラッグ」関係の解説なので、健全な市民は検索しないで下さいまし。

●と言いながら、合法(脱法)ハーブの話。

http://www.warofindependence.net/archives/2012/0224_165544.html
天然のハーブ?ワイルドレタス 2012年2月24日

〈キク科アキノノゲシ属のワイルドレタス(Wild Lettuce)、Lactuca virosaは、イギリスの南東部や東部で見られる。
(中略)。
アヘン(ケシ)に似た催眠効果や鎮静効果、陶酔作用、多幸などの穏やかな向精神作用があり、アヘンの代用として用いられた歴史があります。

ワイルドレタスのほかに、ビターレタス、オピウムレタス、ラクトゥカリュムソなどと呼ばれるが、天然の合法ハーブとしてひそやかに知名度があるオピウムレタスとは、ラクツカリウムソウと言う草を乾燥させて水で煮て固形化したものの呼び名です。
(中略)

不眠症、精神不安定、乳液をケシの代わりに用いる。多量の服用は毒となる。

毒成分名 (中略) ラクチュコピクリン(鎮静、鎮痛効果のある苦味物質) 〉

(全く同じ内容のURLだけ違う「向精神作用があるレタスについて」ページもあります。)

●もうひとつ

http://zakootomomi.ti-da.net/e4118790.html
アメリカで暇人だしぃ
2012年11月01日 ワイルド・レタス規制無し?

〈ワイルドレタス(Wild lettuce、学名:Lactuca virosa)は、アキノノゲシ属の植物である。アヘンにも似た催眠効果や鎮痛効果などの穏やかな向精神作用が認められる。レタスに近い関係から、ビターレタス、オピウムレタス、ラクトゥカリュムソと呼ばれている。〉

↑この部分は上記の記事を要約したような印象・・・

〈エクスタシーにも、含有されているようです。。。  (中略)

アメリカでは、この ワイルド・レタスは違法となっているようです。。。

が、日本は?? 検索してみても、確かな、情報が 得られなかった。。。

輸入サプルメントとして、購入可能のような。。。曖昧だ。。。〉

●上記のエクスタシー

http://www.ne.jp/asahi/amamania/2013/diary0112.htm
DIARY(2001) December
12/4(Tue)       Ecstacy

〈『Ecstacy』といってもドラッグのことじゃないよ!そこのヒッピーのお兄さん!残念でした!!
実はきょうタバコを買いにいつもの自動販売機に行ったら、『Ecstacy』と書かれたタバコが入っていた。パッケージは白で蝶のイラストがあってカッコイイー。値段をみたら480エンと超高かったが、あまりにもめずらしいので思わず買ってしまった!

そして家に帰ってからさっそく吸ってみて高い理由がすぐにわかった。なんとハーブ・タバコなのだ!以前友人が作ってくれたハーブ・タバコを吸った事はあるけど、まさか販売機で売っているとは思わなかった。「中南海」というハーブを混ぜた中国タバコは知っているが味はやはりタバコに近い。でも『Ecstacy』は完璧なハーブでニコチンはゼロだ。成分を見てみたら、ワイルド・レタス, キャットニップ, マグワート, ミント, パッションフラワー,セイジ, ガラナ, ヤーバサンタ, 8種類のハーブを使用、〈TABACCO FREE〉と明記されていた。〉

480円とあるけど、推察するとアメリカでの話のよう。

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で、ふと我に返りました。仕事もしないで何やってんだ自分。大丈夫か? 終わりにしましょ。その前に3件掲載。

●美屋和漢薬研究所(←ネットでは詳細不明の研究所)
http://www.naoru.com/Wild_letuce.htm
ワイルドレタス

【学名】 Lactuca virosa
【英名】 Wild letuce
【使用部位】 乾燥葉。
【成分】 苦味ラテックス:ラクツシン・ラクツコン・ラクツピクリン
     アルカロイド/トリテルペン/鉄/ビタミンA、B1、B2、C
【効能・効果】
 乳液にはケシと類似の作用がある。
 不眠症   精神不安症・全草に鎮静作用あり。
 刺激性の咳:乳液をケシの代わりに用いる。
 百日咳   から咳
【注意】 多量の服用は有毒。

●『精神活性物質の事典』副題:LSDからレタスまで
 リチャード・ラジュリー 青土社 1999年10月1日

〈ヨーロッパでは、レタスの種子は麻酔薬の材料のひとつとして用いられ、17世紀のウィリアム・サーモンはレタスの種子を強力な鎮痛剤・麻酔剤であるとしている。〉 (320ページ)

何レタスの種子なんでしょう。この記述の元となる文献は巻末リスト中の↓これと思われます。が、これを読むなんて不可能・・・

Salmon, W., 1693. Selapsium - The Compleat English Physician: Or, The Druggist's Shop Opend, Matthew Glliflower/George Sawbrige, London.

●平凡社 世界大百科事典30 1988年4月28日初版

161ページ「レタス」から抜粋引用 この項の執筆者は高橋文次郎氏。・・・は省略です。

〈・・・キク科の一・二年草。・・・古くから栽培されていたものなども含めた総称名・・・

・・・原種は地中海東部沿岸から小アジアにかけて分布するL. serriola L.と考えられている。・・・今日利用されている結球レタスは16世紀以降ヨーロッパとアメリカで品種改良されたもので、かつての形態からは想像もつかないほど変化してしまっている。・・・〉

つまり、ヨーロッパの16世紀以前から伝わる話とはレタスが違うということ?

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八百屋さんの玉レタスは睡眠薬代わりにはなりませぬ。

(いわゆる普通の玉レタスは英語では iceberg lettuce と言うそうです。)

ワイルドレタスに手を出すと、恐ろしいことになりそう。

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コメント

あぁ、そう言えばそんな話ありましたね。
すっかり忘れてしまいましたが、
きっとスーパーからレタスが消えたんでしょうね。
先日は、豆苗が消えました。

投稿: kiri | 2013年2月11日 (月) 19時32分

レタス、奥深い。。勉強になりました。

投稿: もな | 2013年2月12日 (火) 09時29分

kiriさま。
あんな話もこんな話もそんな話もありましたねえ。
ほとんど右から左です。
豆苗、やっぱり消えましたか。
豆苗の切り株栽培は好きなのですが、放送を見て便乗した、とみられるのが恥ずかしくて、買いに行くのをやめました。
いい年こいて自意識過剰・・・誰も気にしてませんよね、おばちゃんの行動なんか。

投稿: マイマイ | 2013年2月12日 (火) 09時44分

もな様。
コメントありがとうございます。
十数年前のTV放送の話を蒸し返してみました。
しつこく調べるといろいろ出てくるものですね。

投稿: マイマイ | 2013年2月12日 (火) 09時47分

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