« 『ちいさかったころ。』k.m.p. | トップページ | 『誤植読本』 »

2013年1月24日 (木)

「俺たちは神になるんだ」

というセリフを探して、『聖餐』(石原慎太郎 幻冬舎 1999年7月10日)を読みました。

なんでそんな本を?

少々長い話になります。

ある本を図書館にリクエストしましたら、漫画であるから、と断られました。

確かに漫画ですが、アンデルセンが『絵のない絵本』なら、こちらは『絵のある絵本』です。

第15回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品にも選出されています。

文化庁といえばお偉い官庁の一つであります。

〈文化庁(ぶんかちょう、Agency for Cultural Affairs)は、日本の文部科学省の外局のひとつで、文化の振興及び国際文化交流の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする(文部科学省設置法第27条)。〉 (wikipedia)

いわば国家機関がお墨付きを与えた作品が「漫画だからダメ」ですと。

どうなっとるんじゃ。

で思い出したのが、「東京都青少年健全育成条例」の2010年の改正。漫画・アニメ規制だと騒がれましたね。前石原慎太郎都知事の発言に関連して「東京国際アニメフェアボイコット」も起きましたね。図書館もとばっちりを受けてるんですかしら・・・

で、ネット検索してみたら、「都知事さん、自分はとんでもない変態小説かいてるのに、青少年健全育成ですかい」みたいな記事が出てきまして、ふむどういうことかと読んでみました。

その際、目についた宣伝文2件。

アマゾン

〈(「BOOK」データベースより)(中略)「その時、俺達は神になるんだ」。石原文学の新たな到達点を示す問題作「聖餐」を含む小説集。〉

http://www.amazon.co.jp/%E8%81%96%E9%A4%90-%E5%B9%BB%E5%86%AC%E8%88%8E%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%9F%B3%E5%8E%9F-%E6%85%8E%E5%A4%AA%E9%83%8E/dp/4344401905

グーグルブックス

〈・・・・・を撮り終えた時、俺たちは神になるんだ。クレジットタイトルもキャストもないまま出回ってしまうこのヴィデオの一本一本が、奴らの偽善と嘘をひっぺがすことになる。それは完璧な逸脱、完全な冒涜だった―。石原文学、衝撃の問題作。〉

http://books.google.co.jp/books/about/%E8%81%96%E9%A4%90.html?id=eCBtAAAACAAJ&redir_esc=y

「俺たちは神になるんだ」とはそれだけでもう短編一個分の迫力ですぞ。

で、読み終わってですね、確かに題材はひところ話題になったスナッフビデオなんですけどね、それなりの描写もあるんですけどね、なんだかね、

印象が薄い・・・

なんでしょ、この現実感のなさ。ワタクシが変な本を読みすぎているのか。

なんかこう、丁寧に書かれた粗筋を読んでるみたい。

えーと、あの苦節40年の直木賞作家のえーと・・・胡桃沢耕史さんの『翔んでる警視』シリーズもそれでしたっけ。こっちは書き飛ばした粗筋読んでるみたいでしたっけ(→スピード感溢れるという言い方もある・・・)

後にも先にも、作家石原慎太郎氏の作品を読んだのはこれ1作だけです。きちんと丁寧に書かれています。

なんでしょ。

「神になるんだ」の部分を拾ってみました。「俺たちは神になるんだ」そのものは存在しないようでした。

〈「映像の中じゃ俺もあんたも神様みたいなものだった。だから、この仕事をやって改めて神様になって見せてやるのさ。

 彼らのいう罪だのなんだのを、この俺たち神様が映像の中で超越して見せつけてやればいいんだ。」〉 (43ページ)

〈「その二人が、改めて、神様になるということだよ。」〉 (45ページ)

〈なによりも大切なことは、二人を神様にしてくれるための格好な役者を探すことだった。〉 (45ページ)

が、撮り終えたとき二人の神様はあえぎながらつぶやく。

〈「でも、俺たちは何なんだ」〉 (92ページ)

そして

〈「これでなんとか家に帰れるな」〉 (94ページ)

畏怖する「神」でなく、「エンタの神様」に思えてきます。

タイトルの「聖餐」の意味も掴みかねました。

パンと葡萄酒をもってキリストの血と肉に代え、共同体の信仰を示すキリスト教の儀式のこと・・・と中途半端な解釈ですが、生贄のことではないと思います。

が、小説『聖餐』では生贄のこととしか思えない。

キリスト教儀式の名を借りながら、キリスト教における絶対神的なものの記述が全く無い。

私憤で第三者を殺害し鬱憤を晴らし、そしらぬ顔で日常生活へ戻っていこうとする・・・

所詮絵空事、と承知で書いているのか。

---------------------------

戦慄する本は存在します。

以前は夢中で読んだけれど、今は近づきたくない本があります。読まないことをお勧めします。

山口椿『闇の博物誌』 青弓社 (1992/04)

〈(前略) 美麗と醜悪、此岸と彼岸の境界に潜むこの世のダークサイドを、アンダーグラウンドの白眉が硬質の水晶体で透徹する、哄笑と哀惜の一大博物誌〉 (アマゾンより)

山口椿さんの著作を手に入る限り読んだ時期がありました。精神状態が大嵐の頃でありました。あの時期には山口さんの世界が必要でした。

ふっと気がつくと誉めてあげたいくらいの凡人になることが出来た今、山口さんの世界に入ることはできません。しょせんワタクシはつっぱっただけのニセモノでした。

愛読作家山口椿、と答えたときに、「ああ読んだことがある」と言った人がおりますが、あれは絶対山口瞳さんと間違えています。

人間、事物を自分の知ってる範囲内のモノに置き換えがちです。山口椿さんと山口瞳さんを混同するとひどい目にあいますよ・・・

山口椿さんはチェリストでもあります。

↓不安をそそる音色が聴けます。

Histoire de l'oeil(眼球譚)
http://youtu.be/zRIkq9Q8-kQ

---------------------------

で、肝心の公共図書館に漫画はダメ、の件はよくわかりません。漫画の新刊は入ってくるみたいだし・・・リクエストを受け付けないなら、誰が購入選定してるんでしょ。どんな基準なんでしょ。

|

« 『ちいさかったころ。』k.m.p. | トップページ | 『誤植読本』 »

文系(本とか)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/525834/56611045

この記事へのトラックバック一覧です: 「俺たちは神になるんだ」:

« 『ちいさかったころ。』k.m.p. | トップページ | 『誤植読本』 »